タニコー株式会社

タニコーは業務用厨房機器メーカーとして、お客様のニーズに合った厨房機器及び厨房のトータルコンサルタントを行ってまいります。

こだわり実験室 実験レポート

■ 『梨の質量と含汁量との関係』

改札を出た。
鮮明な秋空から突き抜けてくる低い午後の日差しが、私の目に眩しい。駅前では、人は疎らだがバスの往来だけは激しい。私は懐かしさからか嬉しくなり人目を憚らず大きな声で背伸びをし、深く息をした。

久しぶりに訪れたこの地には、私にとって、たくさんの思い出が残る。駅から西へほど近いところに、高幡山・金剛寺、通称高幡不動尊へ通じる短い参道がある。今日はどうやら恒例の『菊祭り』らしい。人々の喧騒とともに、よく晴れた秋の縁側で遠い日に嗅いだあの菊の懐かしい匂いに私は、思いをはせるのだった。私の足は、寺の脇道を抜け、丘陵地帯に佇む梨園を目指した。クリーニング店を過ぎると間もなく、防鳥ネットで覆われた梨の群木が見えてくる。その奥から果樹園主人、秋田氏(仮名)がこちらに手を振りながら声をかけてきた。健康的な黒い顔に大きな茶色い目が印象的だ。

「おぅ、木島(仮名)。ひさしぶりだなぁ」

彼とは小学校時代からの幼なじみであり、猛烈なサッカーファンでもある。私も彼の影響を受けてか、サッカーは大好きだ。先日のワールドカップ第三代表決定戦も、勿論私はマレーシアまで足を運んだ。あれは凄かった・・・

・・・ゴール前、中田が持ち込む。
中田が持ち込む!左足ぃ・・・!!
!こぼれている。岡野?!
シュトッ!入った!
ゥゴォ〜〜〜〜〜ァル!
ゴ〜〜ォルゴルゴル・・・
岡野だ!岡野!オカノ・・・・・

今思い出すだけでも鳥肌が立つ。それをネタに秋田氏と話が弾む。世間話のあとの本題も、先だって電話でお願いしてあったので、研究材料の完熟梨は既に用意されていた。

「木島よぉ、随分やつれたな。大変だったんだって」

秋田氏の心配そうなその言葉に耳を傾けつつ、私は引渡書にサインをした。見事な完熟梨に目を落としていると、私は、私の人生の転機となった、ある事件を思い出さずにはいられなかった。

時に西暦1994年。研究員『清水』は、ヒマラヤ山脈・エベレストの山頂と、マリアナ海溝水深5000m地点との、分子密度差原理による宇宙線核磁気共鳴固溶層気体分子のふるまい方について実験を続けていた。過酷な自然条件を相手にせねばならず、大変な苦労を強いられるであろう事は十分予想された。しかし、この基礎実験が成功すれば、間違いなく宇宙物理学や素粒子物理学の歴史上、画期的な出来事となる。物理学界の夢、大統一理論発見の一助となる可能性もある。計画は周到に 進められ、実験は間違いなく成功する、はずであった。
新しい試みには常に大きな犠牲を伴う。研究員『清水』はマリアナ海溝から生きて再び故郷の地を踏むことはなかった。その原因の一つに水製造を兼ねた、原子力発電装置の能力不足にあった。実験設備は大量の水 を消費する。そのためKGK実験準備チームは、飲料も含め十分な水製造能力のある原子炉を準備していた。だがそんな予測などあざ笑うかのように水は消費されていく。理由はわからないが、深海での実験設備は地上実験と較べて実に5倍以上の水を消費していたのである。施設内に備付の緊急用淡水化装置を作動させたが、バッテリーが切れるまでの気休め程度でしかなく、使い物にはならなかった。
かくして水は底を尽き、加熱した実験装置は緊急停止を余儀なくされた。熱によりダメージを受けた推進部はピクリともせず、動力の得られないバラストでは浮上さえ出来なくなってしまった。

ここは水深5000m。

電波も届かず、外界とは完全に閉ざされている。かろうじて原子力発電装置だけは動き続けていた。が、実験装置が完全停止したことにより、行き場を失った過剰電力を察知した保安コンピュータは、あろうことか 発電停止のトリガーを引く。まもなく施設はすべての機能を失ってしまった。

浮上予定日を過ぎても浮いてこない異常事態から施設が引き上げられたのは、それから半年を過ぎた、ある寒い初冬の夕暮れであった。

悲劇からはや3年。故・清水の上司であり、よき理解者であったKGK基礎科学研究所・先端技術課課長でもある木島は、そんな事もあってか所内での居場所はなく、すでに立場は失墜していた。彼には涙に暮れている時間など無かった。何か短期的なものでもよい。実りのある実験を、それも全人類が熱望し、人類の糧となるような実験を計画せねばならない。そう考えた彼は、清水が志半ばで若くして亡くなった直接的な原因である、飲料水について研究することとしたのだった。

「心配しなくても大丈夫。俺は昔から前向きだっただろ」

私は心配顔の秋田氏に対してできるだけ明るい態度で接した。また、彼に今回だけは実験趣旨を説明することにした。人類にとっていかに大切な実験で、どれだけ私がこの実験に人生を賭けているかを説いて聞かせると、彼は理解を示すとともに、彼の顔から『心配』の二文字は、いつの間にか消えていた。
秋の夕暮れが迫り、まだ17時だというのに辺りは大分暗くなってきた。私は秋田氏に別れを告げ、果樹園を後にした。

私の実験室は東京都内のある一角、人知れぬ場所にある。組織の上では『アネックスビル』などと洒落た名前だが、実際のそこでの扱いは、実力はあるものの、問題を抱えた人物ということらしい。確かに変わり者は多いが・・・。来年早々品川に本部機能が移転する。が、我々はどうなるのか、誰も知らない。
近くのコンビニで食事を買い、重い荷物を担いで実験室に戻ったのは、既に日付を越えていた。ふらふらと部屋にたどり着き扉を開けた。一瞬、部屋を間違ったのではないか。そう思い、回りを見回し、部屋番号を確認し、私はようやく我に返った。

「しまった!」

私の留守のあいだ、泥棒に俳諧されたらしい。実験装置は壊され、壁のものは床に散り、床のものはひっくり返され、天井や床さえも剥がされていた。よく見ると、まるで何かを探しているかのような痕であった。 何が取られたか調べてみたが、食品、それも、ミカンやブドウやメロン、スイカなどの果物だけであった。それらは含水量を調べようと用意しておいた実験用の検果にほかならない。どうやらこの組織の中に、私の実験を妬む人物がいるらしい。そう直感したがここは秘密組織KGK、騒ぐことが許されない。まして外部の警察を呼ぶなど決してあってはならない事。この事件は、それを逆手にとった、計画的な犯行である事は明白であるが、私には黙認するしか方法はなかった。

「急いで研究を開始せねば」

いろいろな果物について調べる予定だったが、残念ながら今の私の手元には梨しかなかった。だが梨に含まれる水分量は、どんな果物にも負けない。私は満足な実験結果が得られることを期待し、早々に実験に取りかかった。

実験目的

水不足を解消するためには、どの果物が適任か、を調べるはずであったが、検果の盗難という思わぬ事態により、今回唯一難を逃れた梨についての、品種による含汁率を調べる事とし、どの品種が高い含汁率を示すかを算出、これにより水不足の解消に適する品種を選定する事を目的とした。

実験装置

現在、梨の個体数は各品種につき一つしかない。決してミスは許されない。したがって計測精度は高くても、操作性が悪くあまりに複雑な装置は排除され、我々がもっとも使い慣れた計測機器を選択することとした。以下にその設備装置を示す。

td20世紀 td幸水 td豊水 td新高 td洋ナシ tdサンつるが

・東芝 ジューサーミキサー JC-555A 出力210W (ジューサー部を使用) ・台はかり (機械式)・実験用水液容器 (容量1000cc)

その外に調理用万能包丁、水分を吸収しないプラスチックまな板が使用された。

実験方法 td検果をジューサーへ投入し粉砕分離する。
検果の『果実時質量』を台ハカリを用いて計測する
検果の洗浄は許されない。
検果はそれぞれ八等分に分割し、ジューサーへ投入し粉砕分離する。
プラスチック押し棒は必ず使用する。 その際粉砕残しが無いように付属のプラスチック押し棒は必ず使用する。
分離時間を一定に保つため、投入が終了して1分間空運転する。
果実時質量』を計測 分離された果汁を実験用水液容器に移し、『果実時質量』を計測した時と同じ台ハカリを用いて計測する。
実験用水液容器の質量は、予め台ハカリの微調整つまみを利用してゼロ設定する。これは言うまでもない。
測定された実験結果を百分率の公式に当てはめ、含汁率を算出する。
含汁率=100 (果汁質量/果実時質量)
実験結果、考察

結果は以下の通りであった。

品名 産地 果実時質量 果汁質量 含汁率
A検果 20世紀 不明 365g 296g 81.1%
B検果 幸水 不明 441g 350g 79.4%
C検果 豊水 福島県 430g 348g 80.9%
D検果 新高 千葉県 560g 425g 75.9%
E検果 洋梨 山形県 248g 138g 55.6%
F検果 サンつるが 青森県 ???g 222g ??.??%

この結果、『20世紀』の含汁率がもっとも多い。が、果汁質量を見ると『新高』が425gと飛び抜けて高い値を示した。しかし『新高』は、実験時、値段が最も高く『20世紀』のほぼ倍額であった。私の主観だが、おいしさにおいて『豊水』が最もよいと思う。が、飲料水の欠乏時という緊急時に、おいしさはあまり関係ないであろう。洋梨は、今回の目的にはそぐわないようである。

こうして調べてみると、梨の含汁率は、人間が含んでいる水分率と似ている事に気が付く。もちろん偶然だが、この事が友を失った私の心に重くのしかかる。

「もし施設船内に梨があったなら、彼らは生きて帰れたかもしれないのに」
万感の思いを抱きつつこの実験を、亡き友、清水に捧げるのであった。

問題

実験結果の中にF検果の「サンつるが」だけが「???」となっています。
さて、ずばり「サンつるが」の含汁率はいかほど?

  1. 70.6%
  2. 71.2%
  3. 73.2%
  4. 96.4%

正解はこちら!

※KGKとは...